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「ジョン・グリシャム」
Susumu Hirano
Professor, Graduate School of Policy Studies,
Chuo University (Tokyo, JAPAN)
Member of NY State Bar (The United States
of America)
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当サイトは小説家・米国弁護士のジョン・グリシャムの作品の研究、批評、およびそれを通じた法律学の研究・教育用サイトです。
First Up-loaded on Apr. 24, 2000. 1st proof reading on Feb. 25, 2003.
(出典: Romaine S. Scott III, (BookRview) The Street Lawyer, 1998 AMERICAN BANKRUPTCY INSTITUTE JOURNAL LEXIS 124 (June 1989).)
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出典:
JOHN GRISHAM著 『THE STREET LAWYER』 (1999年、paper back, Island Books / Dell Publishing).
Up-loaded on Dec. 20, 1999
Revised on Dec. 23, 1999; Jan.
5 & 16, Feb. 11, & Mar. 9, 2000.
弁護士所員数400名を数えるワシントンDCの大法律事務所「ドレイク&スイーニー」に勤める32歳の「私」(マイケル・ブロック)が事務所のエレベータに乗り込むと、一人のホームレスが同乗してきた。そのホームレス(デヴォン・ハーディ)はマイケルの後から事務所に入るなり、銃を構えて訴訟部門の弁護士らと共にマイケルを人質にとって会議室にたてこもる。
ハーディは人質一人一人の年収を訊き、貧乏な人々のためにいくら寄付したことがあるのかを質問していった。人質の中のパートナーの年収は100万ドル[1億円@US$1.00=JPY1.00]にも及び、最低年収の新人弁護士でさえ8万ドル[800万円]に至っていたけれども、ホームレスのためのシェルターや食事のための寄付金を支払ったことのある者は皆無だった。そうこうしているうちに会議室のドアがノックされ、食事の差し入れを受け取る隙を縫って警察の狙撃手がハーディを撃ち殺してしまった。
無事解放されて事務所の外に出てみると、マスコミが取り囲む騒ぎになっていて、人質の家族たちも安否を気遣って来ていたのに、マイケルの家族(妻クレア)だけは迎えに来てくれていなかった。やむなく秘書の車に同乗して帰宅しても、クレアはそこに居なかった。彼女は現在、病院の外科のレジデントをやっていて容易に外出できなかったのだ。思えば大法律事務所のアソシエイト暮らしは、当時新婚だった妻と一緒に居る時間さえ十分与えてくれず、孤独なクレアはとうとうメディカル・スクール(医科大学院)に入学して脳外科医を目指すことになったのである。もとはと云えばマイケル自身が撒いた種だったとは云え、クレアもマイケルも互いの忙しさですれ違いの毎日。弁護士と医者という、端から見れば他人のうらやむカップルだったけれども、実際には子供の居ないことだけがせめてもの救いだった。
翌日は休みを取るように云われたマイケルであったけれども、ハーディのことが気になって事件の背景を調べに行った。ホームレスのハーディは、誰も使わなくなった倉庫に月100ドルの家賃を支払って住んでいたけれども、その倉庫の新しい所有者から追い出されてしまい、追い出し手続を執行したのがドレイク&スイーニーだったのである。この「追い出し」を扱った不動産担当のパートナー(ブラデン・チャンス)の所に本件のファイルを見せにもらいに行ったマイケルに対し、チャンスはあからさまな不快感を表し、マイケルはチャンスのオフィスから「追い出」されてしまった。
この調査の過程で知り合った、public interest lawyer
(後掲の「用語解説」参照)の黒人弁護士モルデカイに共感を受けたマイケルは、その後彼に誘われてホームレスの人達のための炊き出しボランティア活動の助力に出かけた。驚くことに、子供を抱えた若い母親(Lontae
Burton)までもがホームレスの中には居た。自動車の中に住んでいるというその子供をあやし、炊き出しを社会奉仕活動に従事する人達と共に手伝ううちに、マイケルは公益弁護士の仕事に強く惹かれるようになる。しかしマイケルの父は、マイケルが事務所でのハードワークを続けて順調にパートナーになることを強く望んだ。マイケルは今のところ同期入所のアソシエイトの中の出世頭のグループに属していて、順調に行けばあと数年でパートナーになれるはずだったのである。妻クレアも、公益弁護士になりたいなどと云い出したマイケルの変貌ぶりに戸惑いを隠さなかった。
その翌日、驚いたことにマイケルがあやしたホームレスの子供とその若い母親(Lontae Burton、以下「バートン」)一家が自動車の中の排気ガスで死亡したということを知る。その日は路上で暮らすホームレス達にとっては厳しい豪雪の日で、暖を取るために「住んで」いた古い自動車の暖房を付けたままバートン一家は眠ったのだが、あいにくの豪雪で積もった雪が排気管に詰まったため、寝ている間に排気ガスが車内に充満してしまい、バートン一家は死ぬことになったのだった。
マイケルは、事務所で働きながら、余暇の時間 ---そんな時間など無い程に仕事は忙しいのだけれども--- を利用して「プロ・ボノ」
(後掲の「用語解説」参照)奉仕活動を続けて行こうと決心して事務所の自分のオフィスに戻った。その時、ふと自分の机の上に置いてある見慣れないファイルに気が付く。そこには、ハーディ事件の背景となったホームレスの追い出しに関するファイルの一部をコピーしたものが入っていた。誰が置いたか不明なそのファイルの中には、筆跡を見破られないように全て大文字の手書きで、問題の倉庫からの「追い出し」が倫理的にも法的にも誤りだった、という走り書きが入っていた。さらにファイルを読んで驚いたことに、自動車の排気ガスで死んだあのバートン一家も、ハーディと共に住んでいた倉庫からの追い出しに遭っていたのだった。
「追い出し」を担当した不動産部パートナーである前掲ブラデン・チャンスのやり口を嫌っていると思われたパラリーガル
(後掲の「用語解説」参照)の部下ヘクター・パルマが、おそらくは問題のフォルダーを机の上に置いていった張本人であると睨んだマイケルは、パルマに真意を問「詰めるけれども、パルマは自分ではないと言い張る。パルマには養わなければならない妻と四人の子供が居たのだった。それでも良いから、とにかくチャンスが持っているフォルダーを手に入れたいとパルマに要求するマイケルに対し、そのファイルはチャンスのオフィス内のキャンビネットに錠が掛けられて保管されているから無理である、と応えるパルマであった。
モルデカイが運営しているパブリック・インタレストの法律事務所(リーガル・クリニック)へ転職しないか、という誘いをモルデカイから受けたマイケルは、その誘いを受けてドレイク&スイーニーを辞職することにする。年収はわずか3万ドル[300万円]程度にまで落ち込むけれども、それでもマイケルはこの転職を受け入れて、そのことを妻クレアに打ち明けたのだった。しかしクレアは、年収の落ち込みを理由に離婚をしたいと言い出し、結局二人は協議離婚し、マイケルは一緒に住んでいた高級アパートから出て行くことになった。高年収の職を失い、住むところまで失うことになったマイケルは、文字通りホームレスな「ストリート・ロイヤー」として、低額なアパートを探さなくてはならない身にになったのだった。
上司のパートナーや同僚からの慰留を断って、残る数日をドレイク&スイーニーで過ごすつかの間のある時、再び正体不明の者 ---おそらくはパルマ--- がマイケルのデスクの上に今度はブラデン・チャンスのオフィスとキャビネットの鍵を置いていった。事務所を去る前の晩、マイケルはその鍵を使ってチャンスのオフィスに忍び込み、問題のファイルを抜き出して、それを事務所の外でコピーしようと自動車に乗って外出する。しかし運の悪いことに、自動車を運転中にギャングの車にぶつけられ、マイケルは病院に担ぎ込まれてしまう。病院からやっと抜け出して、事故車からファイルを持ち帰ったときにはもはや、ドレイク&スイーニーからファイルをマイケルが盗み出したらしいということが悟られてしまっていた。ドレイク&スイーニー事務所側では、チャンスのオフィス内に残っていたマイケルの指紋や、ファイルを盗み出した晩にチャンスの事務所付近でマイケルを見掛けた者の証言などから、犯人はマイケルに違いないと当たりを付けてしまったのである。
問題のファイルの内容から判ったことは、ドレイク&スイーニーの依頼人の会社が、郵政省からの新しいバルク・メイル(後掲「用語解説」参照)用郵便局舎の入札でせっかく落札した郵便局舎の物件の提供契約を履行するために、急遽、郵便局舎候補地付近のビルの「地上げ」を行った。その業務の委託を受けたドレイク&スイーニー事務所は、ハーディらを「不法占有者」("squatter")と勝手に見なして退去のための告知さえせずに[手続違反で]問題の倉庫から無理矢理「追い出し」てしまい、ハーディ事件の後にあわてて告知手続不履行の事実を隠蔽すべく後追いで告知状をでっち上げてファイルに収めて、もし問題になった際にはその告知状を出したと云うつもりだったことが判明した。この不法な案件を担当していたのがパートナーのチャンスであり、その部下として「追い出し」をすべて実行させられたのが、チャンスに仕えていたパラリーガルのヘクター・パルマであった。ファイルの中には、パルマがまず問題の倉庫の下見に行った際の報告メモが入っていた。その下見の際に倉庫に不法占拠者と思われる人が住んでいることを知ったパルマは、二度目の倉庫への訪問の際に警備員を連れて行って「追い出し」を行ったと推測されたけれども、その二度目の訪問&「追い出し」の際の報告をしたはずのパルマのメモがファイルからは抜き取られていた。おそらくは、二度目の訪問で、倉庫に居る人達が不法占拠者ではなく賃料を支払っていたことが判明したにもかかわらず、パルマは上司の命令で「追い出し」を執行し、そのいきさつが二番目の訪問を報告するメモにはつづられていたと推察された。そのようなメモは不法な「追い出し」を証明する証拠になってしまうので、チャンスがファイルから抜き取ってしまったと思われ、パルマはチャンスのそんなやり方に不満を抱いていたと推測された。
そうこうしている内に、問題のファイルをマイケルが盗んだと睨んだドレイク&スイーニーは、窃盗罪を理由にマイケルを告発し、マイケルは警察につかまって留置されさんざんな目に遭う。モルデカイが留置所に来て、マイケルは無事保釈されたけれども、新聞にはマイケルがファイルを盗み出したという事件が顔写真付きで掲載されてしまった。ファイルを手に入れたいドレイク&スイーニー事務所がわざと新聞社にリークしたものと思われた。さらにドレイク&スイーニーはマイケルへの追求の手をゆるめず、控訴裁判所に対してマイケルの懲戒処分を求めた。重犯罪を犯したことゆえの、二年間の弁護士資格停止処分を求めてきたのだった。
保釈されたマイケルは、モルデカイと共に、ドレイク&スイーニー事務所と問題の「追い出し」にかかわった事務所の依頼人企業を訴える準備に入る。もし不法な「追い出し」が行われず、合法的にきちんと30日の告知期間を被害者のバートン一家に伝えていれば、彼女らは雪の日に自動車の中で死なずに済んだはずである。不法な「追い出し」に遭った倉庫の他の元住人達も、不法な「追い出し」故に損害を被ったはず。したがってドレイク&スイーニー事務所ら被告は賠償責任を負うべきである、というのが訴訟の概要になるという筋書きである。ハーディについてはその死因に自身の違法行為が介在していたので、原告にはなれないと判断された。
この訴訟で勝つための証拠を収集するために、マイケルはドレイク&スイーニーのシカゴ事務所に向かってパルマを待ち伏せることにした。パルマは、マイケルの事件の後、急にシカゴに転属になっていたのだった。おそらくは、チャンスが、法律事務所の他の同僚に不法な「追い出し」であったことを知られたくないための転勤と思われた。マイケルがパルマに詰め寄って、協力をしなければ召喚状を使って証言させて二度とドレイク&スイーニーに戻られなくするぞ、と脅したところ、パルマは問題の倉庫への二度目の訪問に関するメモのコピーをマイケルに引き渡した。睨んだ通tりパリマは、そのメモがチャンスによってファイルから消去される場合に備えて、自分用にコピーを一部採っておいたのだった。そのメモには、二度目の訪問の際に問題のバートン一家も倉庫に住んでいたこと、彼女らは家賃を払ってそこに住んでいるのだから追い出さないでくれと懇願したこと、懇願の際に家賃の支払を示す領収書を示してきたこと、それにもかかわらずパルマは[チャンスの命にしたがって]
警備員を使って強制的に追い出しを行なったたこと、などが詳細に書かれていて、そのメモには家賃支払を示す領収書のコピーまでもが添付されていた。
動かぬ証拠を手に入れたマイケルとモルデカイは、早速ドレイク&スイーニーとその「追い出し」に関係する依頼人企業を被告とする訴訟を提起し、新聞は可哀相なホームレス一家の死を生じさせたのが有名な巨大法律事務所であったというこの訴えの醜聞を書き立てた。それまでのマイケルの形成不利はこれで一変し、評判を重んじるドレイク&スイーニー事務所はこの事態に大きく当惑。おそらくはチャンスに真相を問い詰めて不法な「追い出し」であったことを白状させたらしく、チャンスは事務所をクビになった。
連日の新聞沙汰で酷評されたドレイク&スイーニー事務所ら被告は、たまりかねたのか、まだ提訴したばかりだというのに早くも和解を申し出てきた。50万ドルほどの被告の示談金のオファーに対し、モルデカイは500万ドルを要求。DCにおける陪審裁判になれば、黒人で構成される陪審員はきっと懲罰賠償も認めてくれるだろうとモルデカイは主張して、結局500万ドルを分割払いにするという和解案が成立。マイケルに対する刑事告発も取り下げられはしたものの、ドレイク&スイーニーは懲戒処分の申立については固執し、結局マイケルが9ヶ月の資格停止処分に応じることで和解に至ったのであった。
最後に、ドレイク&スイーニー事務所の筆頭パートナーである80歳のアーサーがマイケルの事務所を訪れ、公益弁護活動に感銘したので協力したいと申し出てくる。マイケルは9ヶ月の資格停止期間を利用して、DC地区の弁護士達が週に数時間でもホームレスのためにプロ・ボノをしてくれるように求めるキャンペーン活動を行なう予定だったので、まずはアーサーからドレイク&スイーニーに話をしてもらうように要請し、アーサーもこれに応じるのであった。
(未校閲)
________________.
(構築中)
(未校閲版)
弁護士の公益活動やボランティアの重要性を訴える作品。日本と非常に対象的な現在のアメリカの好景気の影には、この作品の表すような貧困問題が横たわっていると思うと、その社会システムの欠点を考えさせられてしまいます。個々人の喜捨の心がけを訴えるばかりでなく、セーフティー・ネットの不十分さなどといった社会科学的視点からアメリカの問題を改善する方向の検討を考えさせられます。
それにしても、今回の作品でもグリシャムは相変わらず、巨大法律事務所とエリート弁護士に対して厳しい批判を浴びせているように読めます。確かに、金銭的・物質的な成功のみを求めすぎるアメリカの昨今の風潮には、問題があると云えましょう。以下の各論にても例示するように、巨大法律事務所の高額過ぎる利益・収入は、その職務の公益性に照らせば不当であると云えるかもしれません。
(構築予定)
今回のグリシャム作品は、landlordとtenantとの関係を規律する不動産法を中心として、法律事務所のファイルを持ち出した窃盗罪・刑事法、および弁護士によるそのような行為を規律・懲戒する法職倫理規定が扱われています。更に、後半の訴訟原因となる損害賠償事件では、不法行為法が関係します。
前掲の「あらすじ」で紹介したように、事件自身は単純で、"eviction"と呼ばれる「追い出し」の際にtenantへなすべき事前告知を怠ったというもので、その結果ホームレスに戻った一家が不慮の事故死をした責任を主人公の元居た法律事務所等に問う、というものです。本書の見せ場は、ミステリー的な謎解ではなく、ホームレスの人達の困窮やボランティアの人達の活動のナラティヴな描写にあります。
ところで不法行為法は、特にグリシャムが作家として成功する前の実務に携わっていたときの専門分野です。本書でも示唆されていますけれども、この不法行為法訴訟で最もweak argumentと思われるのは、因果関係の部分だと評者には思われます。「追い出し」された結果でホームレスの一家が死ぬことになった、という因果関係の主張は、確かに事実上はそのような因果関係が存在しますけれども、法律上の相当因果関係が果たして存在すると云えるのか否かが曖昧だと云えるでしょう。何故ならば、ホームレスの一家は追い出されてから1週間程した豪雪の日に暖をとるためにエンジンをかけたまま自動車の中で睡眠していたところ事故で死に至ったので、「追い出し」という事実と死ぬという事実の間には、1週間もの時間の経過があって、エンジンを掛けたまま自動車の中で寝るという被害者自身の行為や、その自動車の排気ガスが雪のためにたまたま室内に逆流してしまったという事故の発生の事実なども介在しており、そのような不幸な偶然が死に繋がっていた訳です。すなわち、被告の過失行為と被害者の死(損害)の発生という事実との間には、intervening causeが介在していて、被告の過失と損害の間には法律上は相当因果関係(proximate case)が欠けていると認定されるおそれがあるからです。もっとも最後の方でモルデカイ弁護士が主張するように、黒人で構成される陪審員ならば容易に因果関係も懲罰賠償も認定してしまう、というのもまた、法理通りに機能しないアメリカ司法「実務」の現実を表しているようにも思われます。(同書480参照)
(未校閲)
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弁護士の公益活動について
本書が示すように、アメリカの多くの法学生は、一流の大法律事務所に就職して長時間労働のアソシエイト生活を10年おくり、そのご褒美として10人に一人未満の確立でパートナーになって高収入を得ることが、弁護士としての「成功」であると思い込み、それに向けての競争にしのぎを削ります。そんな学生の姿を憂いてか、評者が留学していたロー・スクール(法科大学院)でも、お金だけが成功ではない、public interest lawyerもキャリアの選択肢として重視すべきである、と教授らは強調していました。以下はそんな実態を象徴する場面でしょう。
"... During my first year of law school, they took a survey. Over half my class wanted to do public interest law. When we graduated three years later, every-body went for money. I don't know what happened."
同書122頁(emphasis added)
なお、もっとプロ・ボノ・ワークをさせて欲しいという若手弁護士らの要求に応えて、法律事務所も表面上はプロ・ボノ・ワークを奨励する傾向にあります。しかしアソシエイトのビラブル・アワーズを稼ぐノルマは相変わらず厳しいので、実質的にノンビラブルなプロ・ボノをやる余裕など、疲弊したアソシエイトに残っていないというのが実状です。そこでこんな表現が出てくる訳です。
My firm preached pro bono to all its associates, but the free work had damned all well better not interfere with the billings.
同書80頁
アソシエイト弁護士のワーカホリック(仕事中毒)なまでの長時間労働とその成果の法律事務所による搾取に関する表現について
I was expected to bill twenty five hundred hours a year. That's fifty hours a week, fifty weeks a year. My average billing rate was three hundred dollars an hours, so I would gross for my beloved firm a total of seven hundred and fifty thousand dollars. They paid me a hundred and twenty thousand of this, plus another thirty of for benefits, and assigned two hundred thousand to overhead. The partners kept the rest, divided annually ....
同書58頁
年2,500時間のビラブル・アワーズのノルマは結構つらいものがあります。このノルマだと、以下のように長時間労働を強いられます。
I've been averaging two hundred a month for five years, which meant eight per day for six days, with a couple left over. No day could be wasted and precious few hours left unaccounted for. When I left behind, ... I would work twelve hours on Saturday and pahaps do the same on a Sunday. And if I wasn't behind, I would only do the seven or eight hours on Saturday and and maybe a few on Sunday.
同書92頁
なおここで云っている時間は文脈上billable
hoursのことですから、実際の労働時間は後掲のようにこの数値よりも長くなるはずです。
Drake & Sweeney, like most large firms, treats the first year as a boot camp. I worked fifteen hours a day six days a week, and on Sundays Claire and I would have our weekly date. Sunday nights I was in the office. We thought that if we got married, we would have more time together, At least we could share a bed, but sleep was about all we did.
The wedding was large, the honeymoon brief, and when the luster wore off I was back at the office ninety hours a week. During the third month of our union, we actually went eighteen days without sex. She counted.
She ... grew weary of being neglected. .... [Y]oung associates don't complain in the hallowed offices of Drake & Sweeney. Less than ten percent of each class will make partners, so the competition is ruthless. The rewards are great, at least a million bucks a year. Billing lots of hours is more important than a happy wife, Divorce is common,
同書32頁(emphasis added)
長時間労働に高い離婚率。そんなアシエイト生活を続けてもパートナーになれるのは10%に満たない。 主人公とその妻クレアとの関係を表す上のシーンは、大法律事務所におけるそんな常識を端的に表現していると云えるでしょう。
以下の表現は、一週間目一杯多望な仕事に追われている評者の身には確かに良く分かります。
As young workaholics, Claire and I did not need alarm clocks, especially for Monday mornings, when we faced an entire week of challenges. We were up at five, eating cereal at five-thirty, then off in separate directions, practically racing to see who could leave first.
同書118頁
中年男の悲哀??
近年のグリシャム作品には中年男の悲哀を感じさせる表現がたまに見受けられます。(個人的には評者にもその気持ちがよく分かってしまうので、つらいものがあります。)
For the first time in my life, I felt like something other than a young person. I was thirty-two, but in the last seven years I had worked more than most people do in twenty. I was tired, not old but bearing down hard on middle age, and I admitted that I was no longer fresh from college. Those pretty girls in there would never look twice at me now,
同書72-73頁(emphasis added).
本書におけるアイロニーな表現
警官に射殺されたホームレスの家族が、警察ばかりかドレイク&スイーニー法律事務所までをももしかしたら訴えてくるかもしれないとおそれて、同事務所の訴訟部門が人質になった弁護士達の証言をあらかじめ取っておくという脈略から。
"His family will probably sue the cops."
"Of course," I said.
"And they'll probably name us as defendants. People will sue for anything, you know."
Thank goodness, I almost said. Where would we be without lawsuits?
同書42頁(emphasis added).
アメリカ人の訴訟好きがメシの種だという因果な弁護士業のアエロニー。しかもグリシャム特有の独白形式で表現している。
本書におけるロイヤー・バッシングな場面
弁護士をネガティヴに描くグリシャム作品では、ロイヤー・バッシングな場面もしばしば見受けられます。以下などはその例かもしれません。
(何でも報酬請求して来る慣行について、「私」と上司のパートナーのラドルフが依頼人と食事をするシーンから) Lunch with Rudolph and a client at a splendid restaurant. It was called a working lunch, which meant we abstained from alcohol, which also meant we would bill the client for the time. Rudolph went for four hundred an hour, me for three hundred. We worked and ate for two hours, so the lunch cost the client fourteen hundred dollars. Our firm had an account with the restaurant, so it would be billed to Drake & Sweeney, and somewhere along the way our bean counters in the basement would find a way to bill the client for the cost of the food as well.
同書123頁(emphasis added).
このシーンが示唆するように、弁護士と食事するときはその時間分の弁護士報酬料を請求されないように注意しましょう。
ところで、食事にまつわるロイヤー・ジョークに関するご参考情報として、評者が『国際商事法務』誌で2000年から連載を始めるロイヤー・ジョークの中から一つ以下のようなものを紹介しておきましょう。
A man received a bill for $200 in the mail from a lawyer. He calls up the lawyer and asks what the bill for.“For advice” answers the lawyer.
“What advice? I remember having lunch with you but that’s all?” asked the man.
“Yes” said the lawyer, “and remember I recommended the blue-plate special.”
ジェーン・ドウ著、平野晋訳&監修「"法と文学"と法職倫理〜ロイヤー・ジョークからの示唆〜:模範ロイヤー・ジョーク百選」(仮題)『国際商事法務』2000年1月または2月より連載予定。
ビラブル・アワーズ(売り上げ)を上げるコツ(?!)
グリシャムの出世作である『法律事務所』では、違法な請求方法である「ダブル・ビリング」が紹介されていましたけれども、本書『路上の弁護士』では合法に売り上げを上げるコツが以下にように紹介されています。
I kept only ten [files] on my desk, a method I'd learned from Rudolph, and I spent time with each file every day. Billing was a factor. My top ten invariably included the wealthiest clients, regardless of how pressing their legal problems. Another trick from Rudolph.
同書58頁(emphasis added)(上司ルドルフから教えられたコツについて). これは結構鋭いところをついている、と評者には思われます。潤沢に予算を持っている依頼人企業はそれほど請求書にケチをつけて来ませんが、依頼人がケチだったり経済的に余裕がないと、すぐに高すぎると文句を云ってくるのは事実ですから。
そこで、以下のような「マフィーの法則」を紹介しておきましょう。
The client who pays the least complaints the most.
本書における弁護士の倫理感の欠如に関する表現
グリシャム作品は、ネガティヴな弁護士イメージを表している点に特徴があります。本書において倫理感を欠如した弁護士の姿を表現した場面には、次のようなものがあります。
(構築予定)
同書_____頁
その他のネガティヴな弁護士イメージの表現
アドヴァーサリー・システムを信望する米国弁護士は、紛争において徹底抗戦の態度を堅持し「かわいくない」ことで悪名高い。そこで、こんな表現が見られる訳である。
They wanted blood. It was a typical big-firm, hard-ball, take-no-prisoners strategy, and I understand perfectly.
(同書341-42頁)(法律事務所がマイケルを刑事告発したことに加えて控訴裁判所にマイケルの倫理規定違反ゆえの懲戒処分を求めてきたことに対してのマイケルの独白).
ところで、妥協を知らず協調性の無い弁護士を揶揄して、こんなジョークもありますので紹介しておきましょう。
Q: What’s the difference between a lawyer and a terrorist?
A: You can negotiate with a terrorist.
____________/
高級志向で贅沢好き。日本の弁護士同様に、アメリカの一流事務所の弁護士もそのような志向が強いと云えます。企業が一流事務所の弁護士を雇って出張をするとき、企業(依頼人)側の担当者は不合理な社内規定とやらでエコノミー・クラスに長時間座ることを強いられるのに、外部弁護士センセイ方はファースト・クラスで、などという不条理が、日本の企業が依頼人の場合にはしばしば生じます。そもそも仕事(ビジネス)で出張する従業員をビジネス・クラスに座らせないことが不合理であることに加えて、依頼人よりも高額なファースト・クラスが(しかも依頼人の金で!)当たり前だという外部弁護士の態度にも問題があるので、両者が居合わせると不条理が増幅されてしまう訳です。以下ではそんな評者の思いを示唆してくれる表現を、同書から引用してみましょう。
Drake & Sweeney lawyers flew first-class; they felt as if they deserved it. They stayed in four-star hotels, ate in swanky restaurants, but drew the line at limousines, which were deemed too extravagant. So they rented Lincolns. All travel expenses were billed to the clients, and since the clients were getting the best legal talent in the world, the clients shouldn't complain about the perks.
My seat on the flight to Chicago was in coach, booked at the last minute and therefore in the dreaded middle. The window seat was occupied by a hefty gentleman whose knees were the size of the basketballs, and on the ail was a smelly youngster of eighteen or so with jet black hair, cut into a perfect Mohawk, and adorned into an amazing collection of black leather and pointed chrome. I squeezed myself together, and closed my eyes for two hours , and tried not to think about the pompous asses sitting up there in first-class, where I once rode.
(同書328頁)(emphasis added).
普段は女性に優しいグリシャムが、今回は結構厳しい?
グリシャム作品における女性の描き方には、同氏の女性に対する優しさが現れているように評者には思われるのですが、何故か今回の作品では、主人公の妻クレアが打算的な冷たい女として描かれているようです。
(構築中)
(未校閲版)
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