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ジョン・グリシャム

 

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ジョン・グリシャム著『陪審評決』
(映画邦題「ニューオーリンズ・トライル」)の研究

中央大学教授 (大学院&総合政策学部)米国弁護士 (NY州法曹界所属)
平野晋

Susumu Hirano
Professor, Graduate School of Policy Studies, Chuo University (Tokyo, JAPAN)
Member of the NY State Bar (The United States of America)
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『陪審評決』(THE RUNAWAY JURY)
 
あらすじ

タバコ訴訟のトライアル(集中審理・事実審理)において有利な陪審評決を得ようとして、原告側弁護士および被告側タバコ企業はそれぞれ違法な工作を陪審員に対して行なっていく。特に被告タバコ企業による工作は違法性の強いものであり、タバコ・メーカーが供出した多額の基金を使って、元FBI/CIAの私立探偵などまでも雇い、次々と陪審員を陥れて行く。しかし、陪審員の一人ニコラスは、いくら探ってもその素性が不明で、他の陪審員たちのリーダー的存在になっていくなどの不信な動きを見せる。そして、ニコラスの相棒と思われる謎の女が、被告企業側の工作員に接触して何やら共謀を持ちかける気配を示す。

ニコラスは一体何者なのか。その相棒の女性の正体は。そして訴訟の行方は...原告勝訴評決か、被告勝訴か、はたまたhung juryか?後は実際に小説を読んでお楽しみ下さい。
 

総評

現在アメリカで進行中のタバコの(製造物責任)訴訟を題材にしているだけに、実際のシーンが多様されて興味深いできあがりになっています。たとえば、主要タバコ・メーカーの重役たちがそろって連邦議会での召喚に応じて証言しているシーンがさながらマフィアのボスたちの証言のごとくであった、という旨の小説内の記述は、全米法曹協会(American Bar Association)の会員向月刊誌『A.B.A. JOURNAL』でかつて表紙をかざった実際の写真を題材にしたと推測されたりできます。さらにタバコ・メーカー側が様々な手段を使って証拠隠滅や陪審員への工作を図るというストーリーも、実際に元従業員に対して雇用契約上の守秘義務などを盾にタバコ・メーカーが口封じや証拠開示手続妨害(?)に走っているといった同誌の伝える記事などからインスピレーションを得たと推測できる節もあります。

しかしプロットの方は、 トライアルの途中でしばしば陪審に異常が生じているにもかかわらず何故に判事が陪審評決を出させる訴訟指揮を採ったのか、といった不自然なところも感じられるのは、法曹関係者である評者にとって不満です。すなわち、ハードカバー翻訳版の467頁において、ハーキン判事は陪審評決を知る前に陪審の一人であるニコラスから、評決公表後には警備を付けてくれるように頼まれる場面があります。これ以前のいきさつからいっても、ニコラスのこのメッセージから、ハーキン判事の立場ならばニコラスが何らかの圧力や脅迫を外部から受けたものと疑うのが普通であると思われ、そのような圧力あるいは脅迫を受けた陪審による評議の結果がそのまま普通の評決として裁判所の採用するところになってしまうことには、不自然さを感じさせられてしまうのです。

さらに残念なのは、悪者から大金をまんまとせしめるというプロットが『法律事務所』や『パートナー』などと同じ点です。でもこのように、クレバーに悪い奴を出し抜く、というのはグリシャム特有のプロットであると評価することもできるかもしれません。
今回の作品では従来のそれ以上に、特定の主人公の描写に焦点を薄めて参加する様々な人物を時系列的に順序正しく描写していくという手法を強めています(そういえば『パートナー』でも主人公の描写への焦点は薄れていたようでしたが)。読んでいる際に、そもそも主人公は誰なのかという疑問も前半ではちょっと浮かんできましたが、おそらくはニコラスとその相棒の女性が主人公というところでしょう。

問題は色々指摘可能とはいうものの、一般大衆向けには、色々と不正が取りざたされているタバコ訴訟というセンセーショナルな話題を上手に使った作品といえるでしょう。
 
ところでタバコが肺ガンの原因になったという製造物責任訴訟では、因果関係の立証と、「危険の引き受け」の防御が大きなネックとなっているばかりか、小説が書いているように被告タバコ企業側が一つの敗訴も許さないとばかりに多額の費用をつぎ込んで防御にあたっている、とアメリカの法曹界ではいわれています。
 
なお、タバコ・メーカーの大企業が私立探偵を雇って不正な工作を行なわせるというストーリーは、実際に消費者運動家のラルフ・ネーダーに対してGMがかつて嫌がらせを行なったという実話からもインスピレーションを得たとも思われるものです。このラルフ・ネーダーの事件では、同氏が自動車の安全性の欠如に関して連邦議会で証言することを妨害すべく、GM社が法律事務所を介して私立探偵(しかも元FBIのエージェント!!)を雇ってラルフ・ネーダー氏を追い回させ、同氏の過去を洗わせて弱点を見つけようとしたなどとして、問題になったのです。(詳しくはABAの訴訟部会の会誌『LITIGATION』の_______参照。)「草の根」の弁護士を活躍させるグリシャム小説が、草の根の市民運動を行なうネーダーのストーリーにインスピレーションを得たのだとすれば、当然のような気もします。
 

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