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ジョン・グリシャム

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ジョン・グリシャム著 最新作
 『THE KING OF TORTS
(不法行為法のキング)の研究
#2
中央大学教授(大学院&総合政策学部)
および
米国弁護士(NY州法曹界所属)
平野 晋

Susumu Hirano
Professor, Graduate School of Policy Studies, Chuo University (Tokyo, JAPAN)
Member of the NY State Bar (The United States of America)


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First Up-loaded on Feb.9. 2003.   Latest revision on Mar. 16, 2003.
原作英語版読了Feb. 15, 2003. 
(No proof reading「未校正」)

 今月(2月1日)に、米国でも市場に出たばかりの「新作」を早速取り寄せて、同月15日に読了しました。

【今回のテーマ:総評】

【今回のグリシャム作品の特徴・分類】

【あらすじ】

   ミステリー・プロットの定石である、最初にいきなり事件が発生して読者を惹きつける、という出だしに従って物語りは始まる。

-- ワシントンD.C.の路上で、黒人が黒人を銃で殺害。動機不明。当初、D.C.ではよくある事件だと思われた。主人公は公選弁護人事務所(Office of Public Defender: OPD)で経験5年目の弁護士で31歳のクレイ・カーター。ジョージタウン大学の学部と同ロースクール卒...。 --

ここまで読んで、おや、と思わせる。ジョージタウン大を卒業していながら(一流エリート校の一つである)なぜOPDに就職したのか(エリート校の卒業生は皆一流大手法律事務所に就職したがるのが実態なので)?もしかして、主人公は、出世や金銭的成功よりも、貧しい刑事被告人のために敢えてOPDを選んだのか? .... そしてもう一つの疑問。表題は『不法行為のキング』となっている(不法行為法は民事法に分類される)のに、なぜ殺人(刑事)事件が発生することから物語が始まるのか?、と。

   一つ目の謎は、直ぐに解かれる。クレイ・カーターは好んでOPDに就職した訳ではない(『レインメーカー』に似ている)。父親の法律事務所に就職するつもりが急にその事務所の解散という出来事に出くわし、就職のタイミングを逃してOPDしか就職口が残っていなかった。もっと良い転職先に早く移りたいのにその機会が無く、今年こそは辞めるといつも思いながら、ここでのトライアルの経験が将来はきっと役立つと自分に言い聞かせている毎日。  資産家の娘レベッカと数年来の恋人であるけれども、その娘の父親から一流のロビイング系法律事務所(D.C.では多い)の就職先を紹介されたにもかかわらず、これを断ってしまい、そろそろリッチに家庭に収まりたいと望んでいる彼女から、甲斐性無し(?)と愛想を尽かされて離別。わずか1ヶ月後に彼女は他のアイビー・リーグ出の、名門法律法律事務所の御曹司と結婚してしまう(ここまでは、やはり『レインメーカー』に似ている)。

   二つ目の疑問は、少し読み進むと判明してくる。殺人事件の原因が、実は、製薬会社の欠陥薬品に起因していて...というプロットにつながって行くのだ。

-- 動機を探るために、被告人が殺人を犯す直前まで収監されていた矯正施設にクレイが調査に行くと、何か不審な隠し事があるように感じる。そうこうしていると、自宅にヘッドハンターを名乗る男から電話が入る。その男Max Paceいわく、実はヘッドハンターではなくある匿名の製薬会社から雇われてクレイと接触している、と。動機無き殺人事件の原因は、薬中を治す薬の副作用だった。何%かは副作用で頭がおかしくなり、無差別殺人を犯すことが分かった。そこで、クレイにはOPDを辞めてもらい、被告人の弁護も降りて、今度はその製薬会社のために、遺族と素早く示談を成立させて欲しい。その報酬として、何百万ドルもの報酬を約束する。しかしこの申出をクレイが受諾しなければ、同種の殺人事件を担当する他のOPDの低所得弁護士にこの話を持って行く。それがMaxの要請だった。
  倫理的に大分怪しい申し出なだけに、受諾を躊躇するが、結局は、その大金に目が眩んで受諾。クレイはOPDを辞め、示談を成立させ、大金を手にする。OPD時代の同僚を引き抜いて自分の事務所を設立する。

  その後も、Maxは接触して来て、別の製薬会社Ackerman Labs.の欠陥製品Dyloftのインサイダー情報をクレイに示し、集団訴訟を提起するようにアドヴァイスする。その薬品を服用している患者に接触し、医師を雇って副作用の有無を調べさせ、症状があれば集団訴訟に参加させる。TVで原告を集めるCMも流す。ついでに、その製薬会社Ackerman Labs.の株を提訴前後に売買して儲ける知恵までもMaxはクレイに与え、クレイは実行する。

   大量不法行為クラス・アクションの経験のないクレイは、ニューオーリンズのフレンチ・クオーターで開催されるその「業界」のセミナーに参加し、彼らが如何に裕福な暮らしをしているのかと面食らうと共に、自らもその世界にのめりこんで行く。集団訴訟は、被告製薬会社側が早期に示談に応じて来たので、クレイは多額の成功報酬を手に入れる。その際、示談額に不満な原告の一部Mr. Worleyらからは、クレイに対し和解に反対する声を寄せたけれども、クレイはこれを無視して強引に示談を成立させてしまう。

  クラスアクションで大儲けをしたクレイは、部下や同僚に大判振る舞いをし、自家用ジェット機を購入し、南の島のセレブ用別荘を購入し、[後掲の]更なる大量不法行為クラスアクション用の仕込みに何百万ドルもの大金をつぎ込んでいく。マスコミは、若くして急に成功した彼を「不法行為法のキング」と名づけ、クレイは法曹界の寵児になる。

   別れた元恋人のレベッカを忘れられないクレイは、ロシア人モデルRidleyを紹介されて、愛人にするが、心は依然としてレベッカを求めていた。

  Maxは、更に、他の薬品会社(Goffman)の欠陥製品Maxatilのインサイダー情報をクレイに持ちこみ、集団訴訟の提起を持ち掛ける。クレイはTVコマーシャルをやり、準備を行ない、提訴する。しかし同業者のクラスアクション弁護士らは、今回の被告のGoffman製薬会社は手強いと忠告をする。その集団訴訟の成功如何は、今、フェニックスでGoffman製薬会社向けに個別の[集団訴訟ではない]不法行為法訴訟を追行している[真の]訴訟弁護士MooneyhamによるMaxatilの欠陥を追及するトライアルの結果次第だということが明らかになる。クレイは、既に退くに退けない賭けに出たのだった。   

  同業者がくれた、製薬以外の集団訴訟案件もクレイは手がけて行く。Penn.州のHanna Portland Cement Company製のセメントの欠陥による建築工事のやり直しに関するものだ。
  ここから、急に、クレイの成功が転落に向かう。

 @まず、FBIが、Maxのインサイダー取引違反の容疑でクレイのところに事情聴取に来る。Maxは実は証券詐欺のお尋ね者だったのだ、と。そして、クレイ自身による先の集団訴訟提訴前後の製薬会社株の取引も疑われる。

  次に、最初の集団訴訟で示談に反対だった原告Mr. Worleyらが、その後、副作用が悪化して致命的なガンになり、あの示談がクレイの弁護士過誤であったという風潮を生む。結局は、弁護士過誤を追行し、決して示談に応じないことで有名な女性弁護士Helen Warshawの手で、クレイらに対する集団訴訟が提訴されるに至るのだ。何たる皮肉。集団訴訟で富を得たクレイが、今や、逆に、集団訴訟で窮地に立たされる。マスコミはこれを書き立て、クレイをこき下ろす。かつての「The king of Torts」が今や「The King of Shorts」に成り下がった、と。

  次に、セメント会社Hanna Portland Cement Companyへの集団訴訟の示談交渉でクレイはあまりにも欲を出して要求額を下げなかったために、会社側が破産宣告を行ない、一銭も報酬を取れないことになってしまう。そればかりか、会社が破産して労働者がレイオフされ、その元凶はクレイにあるという感情が、その企業城下町であるペンシルバニア州の田舎町で広がる。そして、ある夜、そこの労働者たちと思われる暴漢らにクレイは襲撃され、九死に一生を得る怪我を負って入院する。ロシア人モデルの愛人Ridleyは、少し見舞いに来てくれても、一時間もすれば返ってしまう冷たさだったが、かつて一緒に最初の集団訴訟で成功した後に別の人生に別れて行った部下は駆けつけてくれて、毎晩、面倒を診てくれるのだった。また、FBIによる証券詐欺の追及も、この暴行事件でクレイが十分罰を受けたと思ってくれたのか、それ以上は来なくなった。

   加えて、同業者が危ないと忠告してくれていたGoffman製薬会社への集団訴訟の行方を左右する、Mooneyham弁護士によるフェニックスでの不法行為訴訟が、トライアルでの大方の予想を裏切って、被告製薬会社Goffman側の勝利に終わる。その報を受け、これまで大金を掛けて集めたクレイの集団訴訟の原告団には、もはや何の価値も無いこととなってしまった。

   結局、収益源をすべて失い、さらにはクレイ自身に対する集団訴訟も抱えた彼の財政状態は、破産以外には他に選択肢の無いものとなった。

   すべてを失ったクレイは、しかし、倫理的な自責の念から解放される。そして、クレイの窮地を知ったレベッカも、思いもかけず病院に駆けつけてくれた。仕事中毒のlaw firmのパートナーである夫と結婚生活が上手く行かず、彼女もクレイのことを思っていると言うのだ。更に、かつての部下らは、破産手続が一段落したら金銭的な支援をすると申出てくれた。かつて集団訴訟で大金をクレイが手にした際に、とても寛容に大金を彼らに分配してくれたことへの恩返しだと言う。

   最後に、クレイは、これまでの経緯を、記者に隠さず話すことにする。破産手続で差し抑えになるであろうジョージタウンの自宅も離れ、レベッカが英国に有している家に移り住むのだ。レベッカは、お金も名誉も失ったクレイと、静かに英国のフラットで一緒に暮らして行きたいと願うのであった。

(改訂2003年3月16日時点)
(1st proof reading on Feb. 19, 2003.)

未校閲