総合政策とは何か? 

中央大学 教授(総合政策学部)・米国弁護士(NY州)平野 晋

Susumu Hirano; Professor, Faculty of Policy Studies, Chuo University (Tokyo, JAPAN); Member of the New York State Bar (The United States of America).  Copyright (c) 2007 by Susumu Hirano.   All rights reserved. 但し作成者の氏名&出典を明示して使用することは許諾します。 もっとも何時にても作成者の裁量によって許諾を撤回することができます。当ページ/サイトの利用条件はココをクリック Terms and Conditions for the use of this Page or Site. First up-loaded on April 16, 2007.

【未校閲版】without proofreading

管見「総合政策とは何か?」

March 15, 2007

はじめに(「総合政策」とは何か?)

まず「総合」とは、(まと)まりのない別々の要素を結び合わせて一つの統合的なものにすることです。いわゆる「弁証法」に於ける「正(せい)」「反(はん)」「合(ごー)」の「合」の意味でも使われます。一つの知見の中にのみ閉じ篭ったり、一つの主張にのみ固執することなく、異なる「知見」[1]や意見も検討したり包容したり取捨選択したりして、一つの結論を導き出すような場合に用いられる概念です。

  次に「政策」とは、目標達成の為に採る特定の手段、方法、手法、選択肢、等のことです。目標に到達する為には、まず様々な手法や選択肢を考え出した上で、次にその中から「最適」optimal)な手法を一つ選択するという判断がしばしば求められます。つまり通常、「政策」と言う場合には、そこで論じられる手段、方法、選択肢等は最適なものであることが求められます。そして最適な選択肢であると言える為には、それが皆にとって「説得的」(persuasive)でなければならないでしょう。なお、そのような政策を作る人のことを「政策立案者」(policy-makers)と言います。諸君が目指すのは、将来様々な分野(たとえば企業や官庁やNGO/NPOや研究者の組織等)に於いて、「より良き」(better offな)政策の立案者に成ることです。

  さてそこで「総合政策」とは、複数の異なる知見や意見を検討した上で一つに取り纏めて(以上が「総合」)、目的達成の為の最適な選択肢を導き引き出すことである(以上が「政策」)と定義できるでしょう。総合政策学部に於いて、「学際的」inter-disciplinary)という言葉がしばしば聴かれるのは、前者(すなわち「総合」)の意味で重要です。つまり従来の学部のように一つの「学問分野」(disciplineだけに特化することなく、複数の諸分野を学際的に研究・教育するのです。更に総合「政策」と言う場合には、目的達成の為の最適な選択肢を導き出すことを目指して、総合的学際的な研究・教育を行うことになります。

なぜ総合政策なのか?(求められる理由と具体例)

  世の中の多様な諸問題を解決する為の政策を立案し、決定する際には、一つのdisciplineだけに頼って最適な結論が導き出せる訳ではありません。これは、たとえば当学部の教授・準教授の多くが大学の外部で参画している、地域社会や国レベルでの「研究会」や「懇談会」等といった会合での活動を見れば直ぐに判ります。つまり、日本では、社会の政策や法律を決定する前に、その問題を管轄する官庁が、いわゆる有識者や利害関係団体の代表者を集めて「研究会」や「懇談会」等を開催して意見を纏めて、これを尊重したり参酌したりして政策決定・法案作成に進めるということが慣行として行われています。そのような研究会・懇談会等の構成員は、多様な分野の専門家から構成されていて、正に総合的に最も望ましい政策が立案できるように意図されています。なぜならば様々な分野の専門家が一同に会して英知を絞り出さなければ、最適な政策を立案できないからです。

  たとえば私が座長代理を務めている国の研究会の一つに、総務省主催の「IP化時代の通信端末に関する研究会[2]というものがあります。これは、たとえば家庭内の固定電話が近い将来全て「IP[3]」(インターネット化)されるばかりか、「白物(しろもの)家電」(冷蔵庫等)や「黒物(くろもの)家電」(オーディオ等)までもがネットに接続される時代になり、更には自動車もITS[4]等を通じてネットに繋がり、人間も「ウエアラブル[5]や「ICタグ[6]等を通じて繋がって、正に「ユビキタス[7]」あるいは「アンビエント[8]」な社会になるので、その際には「端末」(ネットに繋がった電話機や冷蔵庫や自動車等々)の品質基準や安心安全を維持する為の最適な規制をどのように設定すべきかといった問題解決の政策を論議する場です。この研究会の主な構成員は、電話会社(NTT, KDDI, ソフトバンク)や家電メーカー(東芝、松下電産)や自動車メーカー(トヨタ)等の主にエンジニアばかりでなく、消費者団体の代表や、私のような法律家まで多彩な分野にわたっています。そこで議論される主な内容は、まずは5年、10年後のIP化された社会の予想を、主に企業代表のエンジニア達を中心に提案してもらい、その上で、そこで生じるであろう諸問題を皆で予想し、かつ、その防止策に必要な規制の姿を皆で議論し合います。生じるであろう諸問題と規制の仕方については、工学技術的な対策で済む場合もあれば、法規制が必要な場合もありますし、それ以外の啓発活動等に委ねるべき場合もあるでしょう。国際的に最適な規制・基準を考える為には、地域社会別の文化の相違までも考慮しなければなりません。更に、どこまでが利用者の「自己責任」で、どこからが企業の責任になるべきかを論じる為には、法律学のみならず倫理学や経済学や認知心理学的な素養さえも必要になります。一人の人間がそれらの素養全てを専有している訳ではありませんから、様々な分野の専門家が一緒に案を出し合い議論し合って、正に「総合政策」することが求められているのです。

  さてこのように、社会の諸問題を解決する政策を立案する為には、総合政策が必要なことは当然のことです。国レベルの研究会ではなくても、諸君の多くが就職する企業ではその経営方針や戦略といった政策を立案・決定しなければなりませんし、官庁やNPO/NGOも社会問題解決の為の最適な政策を立案・実行することになり、そこで指導力を発揮することが期待されるのは諸君になるのです。大学を卒業する多くの者が政策立案・実行と無縁ではいられない現代社会なのですから、総合政策的な姿勢や考え方を大学に於いて教育・研究することもまた、当然必要なはずです。今のように社会が高度化・複雑化して来ると、どうしても専門分野が細分化してそれぞれの分野に閉じ篭って研究・教育を突き詰めることが要請されがちであった為に、これまでの学部も専門分野別にばらばらに形成されて来ました。しかし今、その「分散化」decentralized)した英知を統合(integrateして、「より良い」政策を生み出すことに役立てることが必要になって来ているのです。

おわりに(更に求めるものは「シナジー効果」)

   紙面が足りないので最後に一言だけ加えるならば、総合政策に求められる成果の一つは、企業の「M&A」[9]と同様に「シナジー効果:synergy effect」(相乗効果)である、と私は思います。二つの企業が一つに成ることで1+1=2」になるだけではなく、1+1=2+α」という付加価値を生み出すことこそが、異なる専門分野の知見を取り入れて統合・総合し解決策を立案することの意味であると思うのです。諸君も是非そのようなシナジー効果を求めて、総合政策を追及してみて下さい。


[1] 「知見」とは、知識、見識、およびその世の中に於ける水準の意。

[2] 次のウエブサイトを参照。http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/ip_tsusin/index.html

[3]IP」とは、Internet Protocolの略語。法律学に於いてはIntellectual Propertyの略語と混同され易いので要注意。

[4] ITS」とは、Intelligent Transport Systemの略語。知能型交通体系。

[5] wearable computer。身に着けられるコンピュータの意。

[6] ICタグ」の正式名称は「RFID」。Radio Frequency IDの略語。

[7] ubiquitous。どこにでもある、偏在の意。

[8] ambient。周辺の、環境の、という意。

[9] M&A」とは、Merger and Acquisitionの略語。企業の合併吸収の意。

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