現代不法行為法理論 (Modern Tort Theories)

平野 晋
中央大学 教授 (総合政策学部)
米国弁護士 (NY州法曹会)

関連ページは「アメリカ不法行為法--主要概念と学際法理」「製造物責任法の研究」「損害賠償責任の目的は何か?」「何故、他人の所為(せい)にするのか?」及び「ハンドの定式」及び「ロボットPL」及び「フォード・ピント事件の真相」及び「ファーストフード(外食産業)により肥満症を生じさせた損害賠償責任の研究」及び「『熱いコーヒーは欠陥である』と主張する製造物責任の研究」。

First up-loaded on Jan. 4, 2005 last revised on Sept. 14, 2005.
Susumu Hirano
Professor, Faculty of Policy Studies, Chuo University (Tokyo, JAPAN)
Member of the New York State Bar (The United States of America)
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【未校閲版】without proof

ここでは、法律学の最先進国たる米国の不法行為法(Torts)の知見から、現代不法行為法学を検討します。

目次

不法行為法とは何か

規範の必要性

 不法行為の特質 (πにも帰責性がある、凾ノ汚名を貼る)

不法行為法の発展史

 Corrective Justice(矯正的正義)とは

法理(総論)

法理(各論)

0. 古典的な理論
  1. 賠償・抑止論 compensation-deterrence theory

以下、続きは「現代不法行為法理論」のページを参照下さい。

___________________.

  1. エンタープライズ(事業*)責任論 enterprise liability theory
  2. 経済学的抑止論 economic deterrence theory
  3. 社会正義論 social justice theory
  4. 矯正的正義論 corrective justice theory に代表される個人的正義論 individual justice theories

(*)  日本では、不法行為法学に於いて「企業責任」と言うと別の意味と混同する虞があるので、評者はここに於いて「エンタープライズ責任論」と訳出することにします。

過失責任主義 対 無過失責任主義

不法行為法とは何か

See 平野 『アメリカ不法行為法, infra, at 27-43.

更に基本書として権威のあるDAN B. DOBBS, ROBERT E. KEETON, & DAVID G. OWEN, PROSSER AND KEETON ON TORTS (5th ed. 1984)のChapter I. Introductionから、読者の理解に役立ちそうな部分をかいつまんで紹介してみます。

PROSSER AND KEETON, supra, at 20-26.

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"規範≠フ必要性

See 平野 『アメリカ不法行為法, infra, at 23.

更にシカゴ・ケント法科大学院のWright教授は、概ね以下のように説得力のある指摘をしています。

すなわち、不法行為の目的は賠償と抑止にあると言っても何の足しにもならない。
なぜならば不法行為は、世の中の全ての損害を賠償できるものではないし、賠償しても損失は無くなるのではなくて転嫁されるだけなのだから。
更に抑止についても、あらゆる危険を抑止できる(and/orすべき)訳ではないし、仮に我々が全ての行動を中止しても餓死してしまう。
必要なのは、如何なる種類の損失が賠償に値し、如何なる種類の危険が抑止されるべきかであり、それには規範的な根拠(normative ground)が求められるのです。

See Wright, infra, at 159.

不法行為責任を論じる際には、むやみに凾フ責任を拡張する無過失責任ばかりを肯定するのではなく、上のWright教授の倫理哲学的な指摘を常に念頭に置いておくべきではないでしょうか。

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 不法行為法の特質 (πにも帰責性がある、凾ノ汚名を貼る)

【πにも帰責性がある】

See 平野 『アメリカ不法行為法, infra, at 19-20, 153, 163, 248.

以下のイェール大学ロースクールColeman教授の指摘は、説得力があるのではないでしょうか。 すなわち大衆が忘れがちな、ヒガイシャにも責があるという点を思い起こさせてくれます。

[Stephen] Perryの見解では、典型的な不法行為は、被害者も加害者も双方が危害に対し結果責任があるばかりか、他者は誰も責任が無いのです。

Coleman, infra, at 68.

UCバークレーの法学教授Gordleyも、同様な指摘をしています。

Perryが指摘するように、...事故が生じる場合はいつでも、両当事者共に、そこからの便益を期待する活動を追行していたのです。従って事故の危険はこれら双方の諸活動ゆえのものなのです。同様に私達は、πが自らの便益のためにその危険を作出した、と言うこともできます。

Goddley, infra, at 153(訳は評者) (πも便益を得ているような活動に関しては特に凾フ厳格責任が矯正的正義の観点から否定されるべきだとする文脈に於ける指摘).

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【凾ノ汚名が貼られる】

See 平野 『アメリカ不法行為法, infra, at 32-38.

更に以下のオックスフォード大学Honore教授の指摘も、凾ノ汚名が貼られるという不法行為責任の特筆を表していて、重要だと思います。

立法者や裁判所が行為(conduct)を不法行為(tort)だとすることは、すなわち、その行為が悪い(wrongful)ものだとしてスタンプを貼ることにより、その行為を禁止し、あるいは、奨励しないこととし、または、最低でも、かかる行為にふける者には責任が課さ得るとすることで警告をすることになります。 不法行為を「不法な」("tortious")とか「悪い」("wrongful")と記述することは、刑事法に於ける「犯罪」("offense")という文言ほどには強烈ではないし、同じ程の汚名(stigma)は伴わないとしても、それは程度の問題なのです。

Honore, infra, at 75.

私見では、従って、帰責性の無い凾むやみと有責としてしまう無過失責任の拡大は、「汚名効果」(?!)(stigma effect)から推しても、倫理的に正当化され得ない、と思いますが如何でしょうか。

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不法行為法の発展史

平野 『アメリカ不法行為法, infra, at 212.

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 Corrective Justice(矯正的正義)とは

平野 『アメリカ不法行為法, infra, at 35, 220, 225, 291, 292 n.5.

他人の損させることによって自らが利する場合に、他人の損を元に戻させるべきだという正義観が、corrective justiceです

アリストテレスが、もうひとつの倫理であるdistributive justiceと共に説いたと言われ、不法行為法の倫理哲学的根拠として、アメリカ不法行為法学ではしばしば出て来る概念です。

なお、distributive justiceとは、富を平等に分配すべきだとする正義観です。

両倫理観は不法行為法では両立しないという説と、両立するという説の対立があります。【評者注*1】 (私見は両立しない説を支持)

前者の説では特に、corrective justiceこそが不法行為(司法・私法)の根拠とされ、後者は「税法」のような公法的・立法府(=政治)による解決が適していると言われます。 (私見も同意)

【評者注*1】 Ernest WeinribやPerter Bensonが非両立説であると指摘されています。See Gordley, infra, at 132. Gordley自身は両立説のようです。

Coleman, infra, at 71 (訳は評者).

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NZ事故補償的制度と不法行為訴訟の矯正的正義

イェール大学ロースクールのColeman教授は、ニュージーランド事故賠償制度のようなものは加害者への責任追及を欠くためにcorrective justiceに反すると示唆しながら、CJは社会の束帯にとって重要であると以下のように主張しています。

矯正的正義の慣行は、コミュニティの結束と自己責任(personal responsibility)(もしそれが該当する場合)を強めます。更に、矯正的正義の慣行をコミュニティが欠く限りに於いて、これらを腐食させると同様にコミュニティの自由な理想も腐食させるかもしれません。

シカゴ・ケント法科大学院のWright教授も、概ね以下のように指摘してat fault common fund制(不法な行為をする者達がお金をプールするというもの)が矯正的正義に反するとして批判しています。

被害者はコモンファンドから補償を得るけれども、この制度は加害者に対しての請求にならないから、相互作用のある双務的権利と義務を無視し、権利と義務それ自体の規範的矯正性(normative correctivity of rights and duties per se)に反する。

See Wright, infra, at 180. すなわち、権利侵害者に対して元に戻させるという関係になっていないという批判だと解されます。

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分配的正義と矯正的正義の区別】

平野 『アメリカ不法行為法, infra, at 292 n.5.

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分配的正義は立法府が最適

平野 『アメリカ不法行為法, infra, at 225.

以下は私見ですが、製造物責任に於ける「分類別責任」(category libility)のような問題を解決するには司法府では不適切だけれども、代替設計案と該製品との比較というミクロな設計欠陥の判断ならば司法府でも可能であるという指摘に、上の分析は相通じるものがあるように思われますが、如何でしょうか。

すなわち、稀少資源の分配と、分類別責任という対象物の大きさ=マクロ衡量の必要性が、司法府には適さないという共通項になってくるのかもしれません...

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法理(総論) Theories - Introduction

不法行為法の見方には大別して以下がある、という指摘もあります。

出典: James A. Henderson, Jr., Why Negligence Domainates Tort, 50 UCLA L. REV. 377, 378 (2002).

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事故法(accident law)に於いては、効用や効率性(utility and efficiency)が責任を判断し帰責性を評価(assessing blame)するための中心的な検討要素になる、効用的な事故法で最も有名な定式が、ハンド・フォーミュラである、という指摘もあります。 [ハンド・フォーミュラについては「ハンドの定式」のページを参照下さい。]

出典: David G. Owen, Philosophical Foundations of Fault in Tort Law, in PHILOSOPHICAL FOUNDATIONS OF TORT LAW 215, supra.

法理(各論)

大別して、以下の5つの法理がある、という指摘があります。

0. 古典的な理論
  1. 賠償・抑止論 compensation-deterrence theory
  2. エンタープライズ(事業*)責任論 enterprise liability theory
  3. 経済学的抑止論 economic deterrence theory
  4. 社会正義論 social justice theory
  5. 矯正的正義論 corrective justice theory に代表される個人的正義論 individual justice theories

出典: John C. P. Goldberg, Twentieth-Century Tort Theory, 91 GEO. L. J. 513 (2003).

(*)  日本では、不法行為法学に於いて「企業責任」と言うと別の意味と混同する虞があるので、評者はここに於いて「エンタープライズ責任論」と訳出することにします。

0. 古典的理論

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1. 賠償・抑止論 Compensation-Deterrence theory

代表的研究者は以下: Oliver Wendell Homes, Leon Green, William Prosser(『不法行為法第二次リステイトメント』の起草者), Kenneth Abraham, Michael Green(『不法行為法第三次リステイトメント:物理的危害(基本原則)』の共同報告者), James Henderson(『不法行為法第三次リステイトメント:製造物責任』の共同報告者), William Powers, Robert Babin, Gary Schwartz(『不法行為法第三次リステイトメント:物理的危害(基本原則)』の共同報告者), Aaron Twerski(『不法行為法第三次リステイトメント:製造物責任』の共同報告者), John Wade.   See ゴールドバーグ, supra, at 521.

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以下、続きは「現代不法行為法理論」のページを参照下さい。

主要引用・主要参考文献

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【未校閲版】without proof