MGM 対 Grokster事件判例要旨

セントラル・サーバーを用いないP2Pファイル交換ソフト頒布者であっても、著作権違反行為を導いていた場合には有責であると連邦最高裁が判断

中央大学 教授 (総合政策学部)
米国弁護士 (NY州)
平野 晋

関連ページは「サイバー法の研究」「MGM対Grokster(同意意見)

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Susumu Hirano
Professor, Faculty of Policy Studies, Chuo University (Tokyo, JAPAN)
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紙媒体に於ける以下のオリジナル版の掲載誌は、『国際商事法務』第33巻7号1006頁(2005年7月)(連載:インターネット法判例の紹介)です。

本件の原審(第九巡回区控訴審)裁判例の概要は、やはり『国際商事法務』誌に於いて、昨年9月(32巻9号1266−67頁)(連載:インターネット法判例の紹介第76回)に紹介しておりますので、そちらを参照下さい。

はじめに

ピア・ツー・ピア(peer-to-peer)なファイル交換ソフト事業の違法性に関しては、Napsterについて、既に【連載第34回29巻3号2001年3月347−48頁】にて紹介している。今回紹介するのは、更に進化したP2Pなソフト事業についてであり、世界の注目を浴びつつ連邦最高裁判所の判断が待たれていた。連載にぎりぎり間に合うつい先日その判断が下されたので、これをケース・ブリーフ化して日本に一早く紹介しよう。

Grokster事件の概要

【事件名】 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. v. Grokster, Ltd., 2005 WL 1499402 (U.S.)

【裁判所】 連邦最高裁判所

【判決日】 2005627

【事件の概要】

被告Grokster社とStreamCast社は、それぞれFastTrack technologyGnutella technologyを用いて、セントラル・サーバーを要せずにユーザー同士がpeer-to-peerなネットワークを通じて直接に電子ファイルを交換し合えるソフトを(ただ)で頒布していた。このソフトを用いて多くのユーザーが音楽やビデオ著作物を著作権者等の許諾なく入手していた。被告は単にこれらフリー・ソフトウエアを頒布するだけでなく、既にNapsterを用いて許諾なく著作物を入手していたNapsterユーザーを被告自身のユーザーにするよう意図しはたらきかけていた。被告の事業は、只で頒布したソフトのユーザー宛に宣伝を送信することで広告主から収益を得るビジネス・モデルであったため、ユーザー数が増える分だけ収益が上がる構造であった。被告は、著作物を許諾なくユーザーが交換し合うことをフィルタリングしようとはしなかった。原告MGM社等は、被告に対し著作権侵害を理由に損害賠償と差止請求の訴えを提起。原告・被告双方がサマリー・ジャッジメントを申し立て、連邦地裁は被告の申し立てを認容。連邦控訴審(第九巡回区)も連邦地裁判決を支持。著作権侵害ではない実質的な使用の可能性を有する商業製品(a commercial product capable of substantial non-infringement uses)の頒布者が、具体的な侵害事実を知りながら行為を怠る場合を除き、寄与責任(contributory liability)を課されることはない、という後掲の「Sony」判決に基づきつつ、本件被告のソフトが分散型(decentralized architecture of their software)ゆえに具体的な侵害事実を知り得ないので責任を否定したのである。

【主な争点】 合法・違法の双方の用い方が可能な装置の頒布者が、第三者(ユーザー)による著作権侵害に関し、いかなる場合に責任を負うべきか。

【判決・判示事項】 著作権侵害を助長するために採られた表現や積極策によって明白に示された、侵害を促進する目的を持って装置を頒布する者は、第三者による侵害行為に関し結果的な責任を負う(誘因準則:inducement rule)。当法廷意見にしたがって、控訴審判決を取り消し、原告からのサマリー・ジャッジメント申立を再検討するよう事件を差し戻す。

【主な関連法規・判例・学説】

- Sony Corp. of America v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417 (1984)(ユーザーにより著作権侵害に用いることもできるビデオ録音機は、同時に、後で番組を楽しむ「time  shifting」な非侵害的使用や、やはり合法な「build a library」な使用にも適するので、商業的に実質的な非侵害使用の可能性を有していて寄与侵害に当たらないとされた).

【判決理由】

 【Souter判事による法廷(多数)意見】 本件の問題は、著作権者の利益と技術革新の利益との緊張関係にある。被告ソフトを用いた侵害的なダウンロードが日々多数生じていることに鑑みると、間接的責任を課すべきだとする著作権者側の主張に力がある。広く頒布された役務や製品が侵害行為に用いられると、複製装置の頒布者に対する寄与・代位責任のみが現実的権利行使手段になってしまうからである。

 両当事者も法廷の友(amici)も、「Sony」判決の解釈こそが本件の要であると主張している。そもそも「Sony」判決は、特許法上の「汎用製品・重要産物の法理」(staple commercial article doctrine)を反映し、それは特許装置の非侵害的使用に適した構成部品を頒布しても特許侵害にはならないとするものであった。この法理は誰かがミスユースすることを知り得るだけでは責任を課さないことにより、技術革新が息を付ける余地を残したものである(It leaves breathing room for innovation)。本件において原告は、本件ソフト使用の約90%もが侵害的であるという統計証拠等を基に、残る10%を非侵害的使用と仮定してもそれは商品を合法化する「実質的な」(substantial)ものに値せず、商品の「主要な」(principally)使用が侵害的であれば合法たり得ないものと「Sony」判決を解釈するよう求めている。逆に、被告は、現時点において侵害的な使用が主要な慣行であったとしても、非侵害的ユーザーは実質的なものであり将来増加する、と反論している。ところで控訴審は、侵害的使用を惹起させる実際の目的が証拠によって示されている場合においてまでも、製品に実質的な合法的使用の可能性があれば寄与責任を課し得ない、と「Sony」判決を狭く解釈したことにおいて、誤っている。しかし我々はこれ以上、原告が求めるような「Sony」判決の更なる解釈についての判断を差し控える。「Sony」判決は、頒布された製品の特徴や使用から、法律上、非難すべき故意を代位的に帰すことに限られたものである(Sony rule limits imputing culpable intent as a matter of law from the characteristics or uses of a distributed product.)けれども、本件では製品の特徴や使用以外≠ノも侵害を促進させる言動が示されているからである。

 我々は、前掲【判決・判示事項】に示したような誘因準則を本件において採用する。我々は技術革新の重要性にも配慮するので、「Sony」判決が示したように、侵害の可能性や実際の侵害的使用を知っているだけでも責任を課すには足りず、製品頒布に付帯するテクニカル・サポートやアップデート等を付与するだけでも足りないと判断する。それ以上の意図的で、非難すべき表示や行為(purposeful, culpable expression and conduct)に、誘因準則は基づくのである。

 本件では、三つの証拠が被告への誘因準則の適用を肯定している。一つ目は、著作権侵害で知られていたNapsterユーザーを取り込もうとしたことで、これが侵害を生じさせようとする意図を主に表している。二つ目は、フィルタリング・ツール等の、侵害を減らそうとする行為を採らなかったことである。三つ目は、広告宣伝から収益をあげるビジネス・モデルであり、被告のソフト使用が増える分だけ収益が増える構造の中で、多くの使用は侵害的であったと記録が示している。

 すなわち本件では、第三者による侵害を生じさせる目的とそこから収益を上げることまでもが証拠により示されおり、そこから明白に違法な目的を推論することに依拠した事件である。他方、「Sony」判決の方は、合法的使用と非合法的使用との双方が考えられ得る場合に、過誤(fault)を推定または代位的に帰すべきか否かという事件である。両者の事実は実質的に異なるのであり、「Sony」判決に依拠して被告のサマリー・ジャッジメント申立を認容した判決は誤りであった。

<なお、Ginsburg判事と他2名の判事による同意意見と、Breyer判事と他2名による同意意見があった。>

 おわりに

 本件は非常に重要な判断なので、次回も、同意意見を紹介する予定である。編集注: 同意意見は、MGM対Grokster(同意意見)」にアップロードしてあります。