メーガン法合憲判例

中央大学 教授 (総合政策学部)
米国弁護士 (NY州)
平野 晋

Susumu Hirano
Professor, Faculty of Policy Studies, Chuo University (Tokyo, JAPAN)
Member of the New York State Bar (The United States of America)
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関連ページは「サイバー法の研究」及び「イリノイ州対Grochocki」事件判例

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【未校閲版】without proof

紙媒体に於ける以下のオリジナル版の掲載誌は、『国際商事法務』第32巻6号832頁(2004年6月)です。

少年A 対 ニュージャージー州」事件

〜有罪確定性犯罪者住所情報をインターネットで知らしめる制度が合憲とされた事例〜

はじめに

 7歳の児童Megan Kankaが隣人に殺害される事件が1994年にニュージャージー(NJ)州で発生。それが契機となって,有罪の確定した性犯罪者の住所等の個人情報を政府が地域社会に知らしめる「Megan法」(メーガン法)が1996年までに各州で成立。その合憲性を巡り多くの訴訟が提起されているけれども,これまでのところ連邦最高裁も含む多くの裁判所がほぼ合憲判決を下してきている。今回紹介するのは,かかる個人情報を州政府がインターネット上で知らしめても合憲であると解釈した,連邦控訴審の事例である

A.A.事件の概要

【事件名】 A.A.; A.B.; A.C., (a minor by M.M. his natural parent); A.D.; A.E.; A.F.; A.G., (all fictitious initials)individually and as representatives of a class, pursuant to Fed. R. Civ. 23(a) and 23(b)(s) v. the State of New Jersey; James McGreevey, in his official capacity as Governor of the State of New Jersey; et al., 341 F.3d 206 (3rd. Cir. 2003).

【裁判所】 連邦控訴審裁判所(第3巡回区)

【判決日】 2003818

【事件の概要】

 全ての州とコロンビア特別区で採用されている「Megan法」は,有罪の確定した性犯罪者が法執行当局へ住所等の情報を登録するように求めた上,法執行当局がその住所等の情報を地域社会に知らしめることとしている。NJ州の登録制度では,危険性の高い性犯罪者の住所と直近した地域に対してのみ情報を開示していたところ,その後の法改正により,インターネットでも危険性の中位および上位に属する性犯罪者情報を知らしめることとした。本件の原告等は有罪が確定した性犯罪者で,改正法の違憲性を争って州を相手に提訴。同時に,州政府による登録制度の執行を差し止めるように暫定的インジャンクションを申し立てていた。その申立を連邦地裁は一部認容し,原告と被告の双方が当控訴裁判所に上訴。

【主な争点】  (1)防犯の観点から政府が有罪確定性犯罪者の住所情報を大衆に知らしめる方法としてインターネットに載せる州の利益の方が,有罪確定性犯罪者らの住所に関するプライバシー権よりも凌駕するか。(2)同様に,分散した公開情報を集積したデータに対して有するかもしれないプライバシーの権利に対しても州政府の利益の方が凌駕するか。

【判決】 (1)および(2)の双方ともに,州政府側の利益が凌駕する。

【法規・判例・学説】

- Smith v. Doe, 538 U.S. 84 (2003) (アラスカ州におけるインターネットによる性犯罪者情報開示制度は,有罪確定犯罪者を新たに「処罰」するものではないから,憲法の刑事事後法・遡及処罰の禁止条項違反に当たらないと判断).

-Paul P. v. Verniero (“Paul P. I.”), 170 F.3d 396 (3d Cir. 1999) (インターネット開示制度前の旧制度の情報通知がプライバシー権侵害に当たらないと判断).

-Paul P. v. Farmer (“Paul P. II.”), 227 F. 3d 98 (3d Cir. 2000) (同上).

【判決理由】

 争点(1)について。  原告は,インターネット上で知らしめることにより,その情報を特に必要とする者以外にまでもプライバシー情報を提供することになると主張している。これに対し被告の州政府側は,現代社会における市民の移動性(mobility)を考慮すれば,情報を必要とする者の範囲も広がるはずだと反論する。当裁判所も州政府の反論に同意する。なぜなら,たとえば小さな子供を持つ親がNJ州内[の危険な性犯罪者の住所近く]に新居を購入したいと望んでいる場合を考えてみるべきである。この場合,インターネット上で情報を知らしめていなかった旧制度下では,危険性の高い性犯罪者の近隣に新居を購入してしまってからでないと,その情報を得ることができなかった。更には,NJ州内[の危険な性犯罪者の住所近く]に休暇で家族旅行を計画している親にとっても状況は同じであった。このような家族にとっても性犯罪者の住所地域情報が必要なことは,危険性の高い性犯罪者の住所に現に隣接する居住者にとって必要なことと,同様である。前者を後者と同程度に保護するための止むに止まれぬ利益(compelling interest)をNJ州政府が有していないとはいえない。かかる危険情報を事後的にしか知らしめないことになれば,それは当該NJ州法の目的である,「被害者になるおそれのある者を危険から防止しまたは回避させる」(下線は原文)を達成できないものにしてしまう。 

したがって,住所情報に対して性犯罪登録者がいかにプライバシーの権利を有するといえども,情報を開示してあげる対象者を拡大してその者たちを保護する州政府の利益の方が凌駕する,と当裁判所は判断する。これに関しては連邦最高裁の「Smith」事件判決が参考になる。同事件の争点は刑事事後法・遡及処罰の禁止であって,プライバシー権が争点ではなかったとはいえ,アラスカ州におけるインターネット上での性犯罪者情報公開の州法の合憲性を巡るものであって,次のように述べていた。

情報通知の目的と主な効果は,公衆に対して自らの安全を知らしめることであり,犯罪者を辱めることではない。そのスキームの効率性のためには広い公衆のアクセスが不可欠であり,これに伴う辱めは有効な規制に付帯的な結果にすぎないのである。

更に連邦最高裁は次のように述べている。

当該情報の公衆による利用可能性は,有罪が確定した性犯罪者へ継続的かつ苦痛な影響を有するものであるかもしれないけれども,かかる結果は,同法の登録と[情報]頒布条項から生じるものではなく,有罪確定という,既に公開された記録事項である事実から生じるものであるのだ。

連邦最高裁はもっと続けて次のようにいっている。

このプロセスは…犯罪者[記録]の公的な公文書館を訪れることに似ている。インターネットはアラスカ市民にとって書類検索を,もっと効率的で,費用対効果も良く,かつ,便利なものにしているのである。

このような連邦最高裁の分析も考慮すれば,当裁判所は,NJ州がその州民に必要な情報を提供するための「もっと効率的で,費用対効果も良く,かつ,便利なもの」としてインターネットを用いた登録制度を用いることが可能であると結論する。

争点(2)について。  原告の主張は,彼らの氏名,年齢,人種,生年月日,身長体重,および髪の色などの情報を州政府が編集(compile)することでプライバシー権を侵害するというものである。言い換えれば,州が,分散しているとはいえ公開の情報を一箇所に集めると,その集積データに対して憲法上のプライバシー権が生じると主張する。しかし我々は未だかつてかかるプライバシー権を認めた例がない。「Paul P. I」事件判決においても当裁判所は,性犯罪の防止が止むに止まれぬ利益であるから,分散された公開情報の収集データに関するプライバシー権を検討するに及ばないと判断した。その理由付けは本件でも同様に当てはまる。すなわち,州政府の利益の方が,分散された公開情報を集積させないことに対して有するかもしれない原告の権利よりも十分凌駕する。 

 おわりに

非常に難しいテーマであるが,ネット上での公開を肯定する裁判所の理由付けは興味深い。

【未校閲版】without proof