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ジョン・グリシャム
 

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ジョン・グリシャム著
『パートナー』
の研究


中央大学教授(大学院&総合政策学部)および
米国弁護士(NY州法曹界所属)
平野 晋

Susumu Hirano
Professor, Graduate School of Policy Studies, Chuo University (Tokyo, JAPAN)
Member of the NY State Bar (The United States of America)
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当サイトは小説家・米国弁護士のジョン・グリシャムの作品の研究、批評、およびそれを通じた法律学の研究・教育用サイトです。


Last relocation on  Nov. 15, 1999
 
『パートナー』(THE PARTNER) (1998年、白石朗訳、新潮社)
 
 
あらすじ

ある法律事務所のパートナーが単独自動車事故で焼死して葬式まで出された。しかしこの死亡事故は偽装だった。生存していたそのパートナーは、数日後に法律事務所の依頼人の9千万ドルを横領して失踪してしまった。何年もの間姿をくらましていたこの元パートナーが、ブラジルの田舎町で9千万ドルの持ち主だった依頼人の手先に発見されて拉致、監禁、そして拷問を受けたところでFBIに保護されて、過去が徐々に明らかになる...。

偽装事故では焼死体が発見されていたため、殺人罪で起訴されていると共に、9千万ドルの横領罪でも起訴されている。妻は主人が死んだと思われていたことから何百万ドルもの保険金を得て愛人と共に豪華な生活をおくっていたため、保険会社から保険金返還請求訴訟を起こされている。その妻は、生きていた主人に対して離婚訴訟を提起し、高額な慰謝料、子供の養育権、扶養料などを求めて来る。

なぜ偽装の死亡事故まで起こして、妻子を捨てて失踪したのか。しかも9千万ドルもの横領を犯した背景は何なのか。9千万ドルの所有者であった依頼人の正体は。そして複数の刑事・民事訴訟の行くえは...。後は小説をお楽しみ下さい。
 

総評

徐々に真実が明らかになる展開と、映画のように多様なシーンが織り交ざって出てくる表現手法は、先を知りたくなる読者心理を上手くとらえた作品であるといえます。ミステリーとして非常にドラマチックな作品に仕上がっているのです。

今までのグリシャムの作品との違いは、日常から抜け出したいという中年男性の「夢」をミステリー仕立てで表した点であると思われます。弁護士の理想や正義に燃えていた『評決のとき』や、『処刑室』、『依頼人』、あるいは主人公の弁護士を依然として正義の味方に描いていた『原告側弁護人』などに比べれば、今回の主人公には正義のために行動したというポリシーが欠けているのです。日常に対する失望というテーマは、グリシャムの競合者である法曹作家スコット・トウーローの影響を得たのかもしれない、と思えてしまうのは、評者の考え過ぎかもしれません。いづれにせよ、「芥川賞作家?」型のスコット・トウーローのような作品にはならず、きちんと「直木賞」型のエンタテインメントに仕上がっているのは、やはりグリシャム作品ならではでしょう。

難を云えば、倫理的観点からすべてをハッピーエンドにしなかったのは理解できるとしても、それでもやはり弁護士が依頼人の金を横領するというプロットには、評者は抵抗を感じてしまいます。しかもこのプロットは、グリシャムの出世作である『法律事務所』に非常に似ていることも残念ではあります。

しかしそれでも、倫理や正義といった難しいことを抜きにすれば、一流の法曹ミステリーに仕上がっていることに疑いはありません。追跡と逃亡、盗聴と証拠固め、悪役とFBIの追跡劇、州・連邦官僚の対立と法曹関係者間の司法取引、といったグリシャムのいつもの見せ場は本書でも楽しめます。

加えて、日常から抜け出したい中年男性の「夢」というテーマは、私ごとで申し訳ないが評者も最近になって理解できるようになりました(といっても筆者の家族が本書の主人公のような状態ではないことだけはここに明記しておきましょう)。グリシャムも評者も、中年の域に達っしたということかもしれません。
 

法的な疑問点

『パートナー』300頁(1998年、白石朗訳、新潮社)では、"attorney-client priviledged communications"および"attorney's work products"の法理(以下併せて「秘匿特権とワーク・プロダクト」と呼ぶ)による開示要求への抗弁を利用して、捜査・検察当局と取引を成立させてしまう場面が出てきます。すなわち、主人公らが握っている、上院議員の不正・汚職をあばくことのできる証拠を、捜査・検察当局が開示手続で入手できると脅したところ、主人公側は秘匿特権とワーク・プロダクトを盾に開示要求に応じる必要がないから、主人公を訴追しないという取引に応じなければその証拠が捜査・検察当局には入手不可能である、としているのです。すなわち、次のようなやりとりが主人公側の弁護士サンディと、捜査・検察当局との間で交わされています。
 

[FBI副長官]ジェインズ「きみが証拠を所持しているのなら、君を対象とした捜索令状をとることも可能だぞ。」

[弁護士]サンディ「なにも提出する気はありません。ご存じのように、依頼人から弁護士にわたされたものは、すべて秘匿特権で保護される機密情報ですからね。いわゆる"弁護士職務活動の成果"というもので、裁判所が必要だと判断した場合以外には、開示請求さえ認められないんです。...よってわたしが所有するすべての文書には、秘匿特権がおよぶことになります。」

「では、われわれが裁判所命令をとりつけたら?」スプローリング[司法副長官]がたずねた。

「最初は無視し、そのあと抗弁手続をとります。これについては、みなさんに勝ち目はありません

このサンディの言葉で、一同は負けを認めたようだったし、これを意外な展開だと思うものはひとりもいなかった

(下線は筆者が付加)
 

しかし、秘匿特権とワーク・プロダクトの法理は、証拠をまったく開示しなくて良いというオールマイティなものではなく、事実・証拠を弁護士に預けさえすればすべて開示を逃れるという解釈はおかしいのです。もしそういう解釈が許されてしまえば、依頼人は、都合の悪い証拠を弁護士に預けて悪事を隠すことができてしまうからであす。ちなみにこの法理は、ロー・スクールの1年生が学ぶ基礎的なものですから、捜査・検察当局の人物らがそれを知らないというのはちょっとおかしな気がします。すなわち、上掲下線部の記載には、アメリカの訴訟手続・証拠法上、どうもおかしな気がします。

もっともこのようなグリシャムの誤謬が(もしかして彼は意図的に--知った上で--このような誤謬をしているのかもしれません、なんといってもこれは大衆文学であって法律専門書ではないのですから)、大衆文学としての彼の作品の素晴らしさを減じることはないでしょう。
  
 (構築中)
 


グリシャムの描く女性法曹の姿が女性に対するステレオタイプを助長・永続化させるというフェミニズム的視点からの批判

(当論文のもう少し詳しい紹介については、「ジョン・グリシャムへの批判」のページを参照。)

出典: Carrie S. Coffman, Gingerbread women: Stereotypical Female Atttorneys in the Novel of John Grisham, 8 S. CAL. REV. OF L. AND WOMEN'S STUD. 73 (1998).

『パートナー』のエヴァ・ミランダ: 「男性依存型な女性」(カメレオン)


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